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日本消化器癌発生学会の歴史

本学会は、1989年、名誉理事長の大原毅(当時東京大学第3外科学教室教授)が日本消化器癌発生研究会として旗揚げしました。
当学会では、発足当初から発表演題を原著論文形式でまとめていますが、その記念すべき第1号の序文で、大原会長は以下の様に述べています。


癌の治療のためには、より早期の、より小さい癌を発見して、そこで治療することが絶対条件である。より早期の、より小さい癌を発見していくためには、その癌の発生、それに伴う進展にまで遡らなければならない。このことは、最も患者数の多い消化器の癌についても同様である。

ところがこれまでは、消化器の癌、すなわち、食道癌、胃癌、大腸癌、肝癌、胆嚢癌、膵癌などは個々に論じられることが多く、同一消化器に発生する癌として位置づけ、広い大きな見地から縦覧的に論ずる、いわば、比較消化器癌発生学とでも言えるような学問は国内的にも国際的にもなかった。そこで、同一消化器の癌は同一次元で論じ、かつその類似点、相違点を比較検討することによって、その発生・進展を知り、ひいては治療に結びつけること、すなわち、消化器の癌として総括し一本の太い幹に戻ることは、各臓器の癌をそれぞれ研究することと同じくらい重要ではないかと考えてこの会を設立した次第である。

たとえば、消化器の癌は多くが腺癌であり、それに扁平上皮癌、未分化癌が存在するある意味では単純化できるものであろう。何と言っても消化器の癌は、最も多い悪性腫瘍であり、最も多く治療される対象であり、死亡数も最も高いものであるから、これを一体にして論ずることによって、従来各臓器に細分化され過ぎた消化器の癌の研究を、より大きな見地から見直し討論する、比較癌発生学のようなことができれば、より知識は整理され、消化器癌の全体像がおぼろげながら掴めてくるのではないこという予測を立てている。

このような例として以前から気付いている点を少し述べてみよう。
まず(1)発生母地については、たとえば腺腫、腸上皮化生、再生、炎症などの前段階病変(前癌病変と言ってもよい)が必要であるのか、それとも必要ないのか、癌化しやすいフィールドというのは同一消化管ではある程度同じなのではないかというような点、次に(2)たとえば、胃の異型上皮巣、あるいは、腺腫とよばれている病変と、大腸の腺腫とはどの点が類似しており、どの点が相違しているのか、同じ腺腫(adenoma)と言われながら、癌化率は胃のものが低率で大腸のものが高率であるが、その理由は何であるのかという点、(3)癌の進展に関しては、同じ腺癌である場合その進展は同様であるのか、それとも各臓器に特異的であるのか、もし後者だとすると、単に発生部位の特異性によるものであるかどうかという点、また、各臓器への進展は同一消化器として促進的なのか、それとも、各臓器の環境によって抑制的なのかというような点、(4)診断面では、消化器癌の発生を通覧することによって、同一の診断方法が開発できるのではないか、あるいは、各臓器に偏りがちな診断方法が統一できるのではないかとうい点、(5)治療に関しては、消化器癌の発生や分化度からみたきめ細かい治療ができるようになるのではないか、一つの臓器で用いられている治療法が別の臓器でも使えるのではないかという点など、非常に多数のことが含まれてくるように思われる。

また、問題点はさらに広がって、神経終末やホルモン環境から見ると、消化管は第2の脳であり、またその意味で、分子生物学の重要な研究対象となるであろう。また、上皮性の癌そのものだけではなく、癌を栄養し、この骨格を作る間質にも目が向けられるべきであろうという指摘もある。

この日本消化器癌発生研究会も、一つの視点にとらわれることなく様々な方角にも発展して行くべきであろうし、本書の題名でもある“消化器癌の発生と進展”はそれを予言するような言葉だと思っている。

今回の研究会としては62題の演題が集まった。第1回にしてはよく集ったものと思う。このことは、はなはだ我田引水ではあるが、このような研究会が必要とされていたことを示唆するものではなかろうか。実際、癌関係の学会にしろ研究会にしろ、個々の癌については十分討議されているが、消化器癌の発生、進展というテーマにしぼって、横断的に討論する場というのは比較的少ないと思っている。それだけに、日本全国の癌研究者、すなわち、臨床の内科、外科の先生方のみならず、基礎の病理の先生方の賛同をも得たのであろう。

研究会の骨子としては、各臓器の癌-たとえば食道癌、胃癌、肝癌-というような取り上げ方はしないこと、研究会であるからなるべく討論時間を長く取りたいということ、を中心として企画した。そして、この発表演題を基にして、本研究会誌“消化器癌の発生と進展”を原著形式で発行することができた。これも演者の方々のご努力、ご協力によって、短時間にできあがったものである。できれば英文誌も作りたかったが、初めてでそこまで望むのも無理だろう。しかし、いずれはと思っている。

なお、本研究会のシンボルマークは、発起人の一人である群馬大学第一外科長町幸雄教授が自ら考案されたものである。食道から大腸までの消化管と肝胆膵の各臓器にカニ(癌)が立上がって(発生している)ところであり、その4本の脚(はさみ)は治療手段の一つであるメスを型取っている。

将来的には、この研究会がさらに発展し、国際的な研究会にでもなれば喜びこれに過ぎるものはない。

平成元年9月2日
日本消化器癌発生研究会
会長 大原 毅
東京大学第三外科)


当初からの期待通り、1996年には本研究会の活動を海外へも広めることができました。1996年10月22-24日、広島において開催された1st International Conference of Gastroenterological Carcinogenesis です。その後も第2回を1999年3月25-27日、ドイツのウルムで行い、盛会のうちに終了しています。国内の研究会も1997年には学会となりました。本学会の研究成果を世界に向けて発信するという意味合いから、1999年より機関誌を“Journal of Experimental & Clinical Cancer Research”とし、優秀演題について優先的に掲載し、世界に向けて発信しました。

今後も、会員の皆様とともに、本会が発展していくことを期待しています。


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